「ニューハーフ」がAVで人気なのはなぜ?性的嗜好を匿名で簡単に満たせるネット文化

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AVには数え切れないほどのジャンルがある。出演者の年齢や容姿で分けたものもあれば、設定やシチュエーションを細かく分類したものもある。その中で、日本で古くから「ニューハーフ」と呼ばれてきたジャンルも、現在まで作品が作られ続けている分野の一つだ。

ただし、「ニューハーフ」という言葉には少し注意が必要である。現在一般的に使われる「トランスジェンダー女性」と同じ意味の言葉ではない。もともと日本の芸能や夜の娯楽産業との関係が深い呼称で、時代によって意味や使われ方も変化してきた。ここでは当事者全体を指す言葉ではなく、日本の成人向けコンテンツで長く使われてきたジャンル名として扱う。

では、このジャンルはなぜ一定の視聴者を集めてきたのだろうか。

「ごく一部の特殊な趣味」とは言いにくくなっている

日本の「ニューハーフAV」に限定して、市場規模や視聴者数を継続的に調べた信頼性の高い統計は、少なくとも公開資料ではほとんど見当たらない。そのため、「日本で何人が見ている」「AV全体の何%を占める」といった数字を示すことは難しい。

一方、海外の大規模動画サイトに目を向けると、トランスジェンダーを扱った成人向けコンテンツへの関心が相当に大きいことは確認できる。

Pornhubが公表した2025年の年間統計では、世界で最も視聴されたカテゴリーの1位が「Lesbian」、2位が「Transgender」だった。前年から順位を五つ上げており、同社の集計ではカテゴリーの伸びも前年比58%増とされている。日本は同サイトへのアクセス数で世界11位だった。もちろんPornhub利用者の行動をそのまま一般社会全体の性的嗜好とみなすことはできないが、「トランスジェンダー系の作品は極端に小さなニッチである」というイメージとはかなり違う結果である。

興味深いのは、こうした人気を単純に「同性愛的な需要」と説明できないことだ。

2017年に『Archives of Sexual Behavior』に掲載された研究では、トランス女性に性的関心を持つ男性314人を対象に調査が行われた。そこで確認されたのは、彼らの性的関心が一般的な男性同性愛者のパターンとは異なっていたことである。別の研究でも、異性愛男性はシスジェンダー男性より、女性的な外見を持つトランスジェンダーの人物に強い性的関心を示した。つまり、性的関心は出生時の性別だけで決まるわけではなく、外見やジェンダー表現の「女性らしさ」も関係している可能性がある。

ただし、これらは「ニューハーフAVの視聴者」を直接調査した研究ではない。したがって、この研究だけでAVの人気を説明することはできない。その点は分けて考える必要がある。

男女という区分から少し外れたものへの好奇心

成人向けコンテンツの視聴は、現実の恋愛相手を選ぶ行為とはかなり性質が違う。普段の生活では接点のない人物や、自分が実際には経験しようとは思わない状況を映像として見ることもできる。

トランス女性との性的経験を持つ異性愛男性を対象にした米国の質的研究でも、動機は一種類ではなかった。研究参加者からは、性的な実験への関心など複数の理由が語られており、性的アイデンティティと実際の行動が必ずしも単純に一致しないことが報告されている。

この点をAVに置き換えて考えると、「普段の恋愛対象だから見る」という人だけでなく、「見慣れない組み合わせだから気になる」「自分の好みを確かめてみたい」といった視聴も当然あり得る。

AVそのものが、こうした好奇心と相性のいいメディアでもある。ドラマや映画なら人物の性格や物語が中心になるが、AVでは容姿、身体的特徴、役割、シチュエーションなどが細かなジャンルとして切り分けられる。「ニューハーフ」というカテゴリーも、そうした細分化の中で定着してきたと見ることができる。

ここで気をつけたいのは、ジャンルの視聴履歴だけを見て、その人の性的指向を決めつけることである。性科学では、本人が自認する性的指向、誰に魅力を感じるか、実際にどのような行動を取るかを別々の要素として扱うことが珍しくない。実際、異性愛者を自認しながらトランス女性との性的経験を持った男性を調べた研究でも、その動機や自己認識にはかなりの幅があった。

日本では「ニューハーフ」が娯楽文化の中で広まった

日本でこのジャンルを考える場合、1980年代の大衆文化を無視することはできない。

日本の戦後のジェンダー表象を研究してきたマーク・マクレランドによると、「ニューハーフ」という言葉が広く知られるようになったのは1981年前後である。大阪のショーパブ「ベティのマヨネーズ」のベティと、サザンオールスターズの桑田佳祐とのやり取りから生まれたという説が広く知られている。ただし語源には複数の説明があるため、「桑田佳祐が間違いなく最初に作った言葉」とまでは断定できない。

言葉を一気に一般へ広めた人物として知られているのが松原留美子である。1981年、六本木のキャンペーンモデルとして注目され、その後は雑誌や音楽、映画にも登場した。マクレランドは、こうしたメディア露出によって「ニューハーフ」というカテゴリーが一般にも知られるようになった一方、それがトランスジェンダー的な存在をショービジネスの世界と強く結び付けることにもなったと論じている。

つまり日本では、この言葉が医療や人権運動の用語として普及したのではなく、ショーパブ、芸能、雑誌などの娯楽文化と一緒に広がった。

この歴史はAVとの相性を考えるうえでも無関係ではないだろう。「ニューハーフ」という名称がすでに一つのキャラクターや娯楽カテゴリーとして社会に知られていたからこそ、その後の成人向け産業でもジャンル名として使われやすかったと考えられる。

もちろん、その表現には問題もあった。本人の生活や人格よりも「珍しい身体を持つ人」として消費する見せ方は、現在の視点からは批判の対象になり得る。人気の歴史と、当事者がどのように表象されてきたかという問題は、分けて考える必要がある。

ネット時代になって「見るまでの壁」が低くなった

もう一つ見逃せないのが、AVを見る方法そのものの変化である。

ビデオやDVDを店頭で買ったり借りたりする時代には、興味のあるジャンルがあっても、商品をレジに持っていかなければならなかった。それがネット配信になると、自宅のスマートフォンから検索するだけで済む。

インターネットと性行動の関係を研究したアル・クーパーは、1998年の時点ですでに、ネットが性的コンテンツに与える特徴として「Access(アクセスのしやすさ)」「Affordability(低コスト)」「Anonymity(匿名性)」の三つを挙げていた。後の研究でも、個人専用のインターネット環境を持つこととオンライン上での性的な情報探索との関連が報告されている。

特に、人に知られたくないと感じる嗜好ほど匿名性の影響は大きいだろう。店頭では選びにくかった作品でも、検索履歴を他人に見せる必要がなければ試しに再生できる。そこから関連作品がおすすめされ、当初は強い関心を持っていなかったジャンルを見ることもある。

2025年のPornhubで「Transgender」が世界2位まで上昇したという数字は、そうした環境の中で表面化した需要の一例として見ることができる。ただ、その数字から「なぜ見るのか」まで一つの理由に決めることはできない。

女性的な外見そのものに魅力を感じる人もいるだろう。男女という区分から少し外れた存在への好奇心もある。現実の恋愛とは切り離し、映像の中だけで未知のジャンルを試す人もいる。

おそらく、「ニューハーフAVが人気なのは○○だから」と一つの心理に還元しない方が実態には近い。現在確認できるデータや研究から見えてくるのは、性的な興味は一般に想像されている以上に複雑であり、インターネットによって、それまで外から見えにくかった関心が数字として現れやすくなった、ということである。

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