「ダブルマイノリティ」という言葉があります。これは、社会の中で少数派になりやすい属性や立場を二つ重ね持っている人を表す言い方です。たとえば、ゲイであり、同時にASD(自閉スペクトラム症)やADHDなどの発達障害がある人も、その一例です。
二つの特徴が重なると、「ゲイであること」と「発達障害があること」を別々に考えるだけでは説明できない悩みが生まれることがあります。
ゲイの人たちが集まる場所では、発達特性によるコミュニケーションの難しさを理解してもらえない。発達障害の当事者会では、同性を好きなことを話しにくい。恋愛では、相手の気持ちや言葉の裏を読むことに疲れてしまう。こうした経験が続くと、「自分はどこに行ってもうまくいかない」と感じることがあります。
しかし、当事者の体験を見ていくと、本人が無理に周囲へ合わせ続けるのではなく、場所の選び方や人との付き合い方を具体的に変えることで、負担を減らしている人もいます。
ゲイのコミュニティに入ったのに、なじめなかった
ゲイで発達障害の当事者である澤村永太郎さんは、東京ボランティア・市民活動センターのインタビューで、自身の経験を語っています。
学生時代には、同性愛を理由にしたいじめや、本人の了承なしに性的指向を周囲に知らされる「アウティング」を経験しました。その後、ゲイのコミュニティに参加するようになりましたが、そこでも人間関係につまずいたといいます。
人間関係には、「今は話しかけないほうがよい」「これは冗談として受け取る」といった、言葉では説明されないルールがあります。こうした暗黙の了解を読み取るのが苦手な場合、悪気がなくても相手との距離を間違えたり、言葉をそのまま受け取ってしまったりすることがあります。
ゲイであることを隠さなくてもよい場所を見つけたのに、今度は発達特性のためになじめない。「ゲイの人たちの中ですらうまくやれない」と落ち込んでしまうこともあります。
このような場合、「もっと社交的にならなければ」と考えるだけではなく、参加する場所の条件を変えてみる方法があります。
大人数の交流会で疲れたなら、次は少人数の集まりを選ぶ。夜のバーが苦手なら、昼間のカフェ交流会やオンラインの集まりを探す。自由に雑談する場が苦手なら、テーマが決まっている当事者会や交流会を選ぶ。このように、自分が苦手だった条件を一つずつ減らしていきます。
申し込む前に、参加人数、途中退出ができるか、どのような形式で話すのかを主催者に聞いておくのも役立ちます。
澤村さんにとって転機になったのは、発達障害とセクシュアリティの両方について話せる当事者会との出会いでした。後には、自らダブルマイノリティの当事者会「FLAT」を立ち上げています。
一つの場所になじめなかったからといって、ゲイのコミュニティ全体が合わないとは限りません。「自分を場所に合わせる」だけではなく、「自分に合う場所を選ぶ」という考え方もあります。

恋愛では「察する」ことを減らす
恋愛では、発達特性による困りごとがさらに出やすくなることがあります。
たとえば、LINEをどのくらい送ればよいのか分からない、返事が来ないと嫌われたのではないかと考え続けてしまう、遠回しに断られていることに気づけない、一人で過ごしたいだけなのに「冷めたの?」と言われてしまう、といった悩みです。
海外の研究でも、性的マイノリティの自閉症当事者から、自分の恋愛上の希望を理解したり、それを相手に伝えたりする難しさが報告されています。
こうした場合には、恋愛のルールをできるだけ言葉にしておく方法があります。
たとえば、連絡は一日一回程度にする、忙しい日は短いメッセージだけ送る、一人で過ごす日も作る、嫌なことは遠回しではなく言葉で伝える、といったことを二人で決めます。予定変更が苦手なら、「変更するときはできるだけ早く知らせる」と決めてもよいでしょう。
自分の希望だけを伝えるのではなく、「どのくらい連絡したいか」「一人で過ごしたい日はあるか」「嫌なことはどう伝えてほしいか」を相手にも聞きます。
二人で決めたことを忘れやすい場合は、スマートフォンのメモに残しておく方法もあります。
恋愛では「好きなら言わなくても分かる」と考えがちですが、発達特性がある人にとっては、言葉にしたほうが分かりやすいことがあります。「察する力を身につけなければ」と無理をするよりも、察さなくても関係を続けられる方法を二人で作るほうが現実的です。
相談したけれど、分かってもらえなかったとき
ダブルマイノリティの人にとって難しいのが、相談先です。
発達障害について相談したら、恋人を当然のように異性だと思われた。LGBTQの相談窓口で、コミュニケーションの難しさについて「もっと積極的に人と会えばいい」と言われた。このような経験があると、次に相談するのが嫌になることがあります。
日本で行われた「こえサーチ」の調査でも、LGBTQと発達障害の両方を持つ当事者から、人間関係、仕事、恋愛、感覚過敏、カミングアウト、相談先の少なさなどについて声が寄せられています。
相談するときは、自分の状況と困っていることを短い文章にして、あらかじめスマートフォンや紙に書いておくと伝えやすくなります。
たとえば、「男性が好きです。ASDの診断があります。恋人との会話で遠回しな言い方が分からず困っています。両方を前提に相談したいです」という程度で十分です。
口頭で説明するのが苦手なら、その文章を相談員に見せても構いません。また、相談に行く前に、LGBTQについても相談できるか、発達障害があり口頭で説明するのが苦手でも対応してもらえるかを電話やメールで確認する方法もあります。
実際に相談して、性的指向を否定されたり、発達障害について軽く扱われたりした場合は、担当者を変えてもらう、別の相談機関へ行くといった選択肢があります。
一度うまくいかなかったからといって、「自分は相談するのが下手だ」と考える必要はありません。相談員との相性や、その機関が得意とする分野が合っていなかった可能性もあります。
カミングアウトは相手ごとに考える
ダブルマイノリティの場合、カミングアウトについても迷うことがあります。
ゲイであることは言えても、発達障害については言いたくない。職場には発達障害について伝えているけれど、ゲイだとは知られたくない。恋人には両方話すべきなのか迷う。このように、相手や場所によって事情は変わります。
そのため、「全部話すか、全部隠すか」と考える必要はありません。
家族、職場、友人、恋人、医師や相談員など、相手ごとに、ゲイであることや発達障害についてどこまで伝えるかを決めて構いません。
職場でも、診断名そのものを伝えず、必要な配慮だけ説明できる場合があります。たとえば、「口頭の指示を忘れやすいのでチャットでも送ってください」「予定変更は早めに知らせてください」「電話よりメールのほうが対応しやすいです」と伝える方法です。
澤村さんも、仕事では「連絡して」のような曖昧な指示より、「電話には出られないのでメールで連絡して」と具体的にしてもらうことが役立つと語っています。
自分のすべてを説明しなくても、困っている場面と必要な対応だけを伝えることはできます。

「何がつらいのか」を一つずつ分けてみる
「ゲイで発達障害だから生きづらい」と感じていると、問題が大きすぎて、どこから手をつければよいのか分からなくなることがあります。
そんなときは、一週間ほど、つらかった出来事と「次に変えられそうなこと」を簡単に記録してみる方法があります。
たとえば、「20人の交流会で音が大きく、30分で疲れた」と書いたなら、次は少人数の集まりを選びます。「恋人から『好きにすれば』と言われ、本当に好きにしたら怒られた」のであれば、曖昧な言葉を言われたときには意味を確認するようにします。「相談員に恋人を女性だと思われ、訂正できなかった」のであれば、次回は最初に「男性の恋人がいます」と書いたメモを見せます。
こうして具体的に分けると、「自分そのものがダメだ」という大きな問題ではなく、「大人数が苦手」「曖昧な言葉が分かりにくい」「性的指向を口頭で説明しにくい」といった、対応方法を考えられる問題に変わっていきます。
研究でも、性的マイノリティである自閉症者は、異性愛の自閉症者より不安やストレスなどを強く経験していることが報告されています。また、同じ属性を持つ人とのつながりや、当事者が書いた記事やブログ、自分のアイデンティティについて安心して考えられる環境が、自己理解を助けることも報告されています。
だからこそ、「もっと普通にできるようにならなければ」と考えるだけではなく、自分が実際に困った場面を一つずつ確認し、その場面に合った方法を試していくことが大切です。
大人数が苦手なら、小さい集まりを選ぶ。曖昧な言葉が分からなければ、その場で意味を確認する。恋人との連絡で疲れるなら、連絡する頻度を話し合う。口頭で相談するのが難しいなら、メモを使う。一つの相談先で理解されなければ、担当者や場所を変える。
ゲイであることと、発達特性があることのどちらか一方だけを切り離して生活することは難しいものです。
自分自身を無理に周囲へ合わせ続けるのではなく、どの場面で何に困っているのかを具体的にして、自分に合う方法や人、場所を一つずつ選んでいくことが、日々の負担を減らす助けになります。



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