ゲイ男性向けの掲示板やSNSを見ていると、ときどき「男の汗の匂いが好き」「ジム帰りの男性の体臭に惹かれる」「スポーツをした後の男性の匂いがたまらない」といった書き込みを目にする。こうした嗜好を持つ人はゲイ男性の一部にすぎないが、同じ嗜好を持つ人同士がネット上で集まりやすいため、掲示板やフェティッシュ系のコミュニティではかなり目立つ存在になっている。
英語圏では、男性特有の自然な体臭を「man musk」と表現したり、腋を意味する「pits」、スポーツマンを意味する「jock」、ロッカールームやスポーツウェアなどと結びつけて語ったりすることがある。興味深いのは、そこで好まれているものが単純な「悪臭」ではない場合が多いことだ。運動直後の男性、ジムから帰ってきた男性、スポーツの試合を終えた男性など、「清潔な男性が身体を動かした結果として生じる自然な匂い」が魅力として語られている。
「不潔な臭い」ではなく、運動した男性の自然な匂い

ゲイ男性向け掲示板の体験談を読むと、男性の汗や体臭を好む人たちの多くが、「運動後の匂い」と「何日も身体を洗っていない臭い」を明確に区別している。RedditのAskGayBrosでは、ジム帰りの男性の体臭を好むという投稿に対して、「トレーニング後の匂いは好きだが、不衛生なのは嫌い」という回答がたびたび寄せられている。
別の投稿では、庭仕事をした後やスポーツをした後など、その日に身体を使った男性の匂いが好きだという人が、自分は古い汗や数日間洗っていない身体の臭いには魅力を感じないと説明している。つまり、こうした嗜好を単に「臭ければ臭いほど好き」と捉えるのは実態と違う。本人が健康的に活動していることや、身体が温まり汗をかいた直後であることまで含めて、一つの魅力になっているのである。
この特徴をよく表しているのが、ある若い男性の体験談だ。彼はホッケーの練習やジムの後に男性と会う予定があると、「一度家に帰ってシャワーを浴びてから行く」と伝えていた。しかし何人かの相手からは、むしろ「そのまま来てほしい」と言われたという。女性と付き合っていた頃にはほとんど経験しなかった反応だったため、彼自身が不思議に感じ、ゲイ男性向け掲示板で質問している。
回答には、運動後の男性の身体から出る自然な匂いを魅力的に感じるという人が複数現れた。別の投稿でも、トレーニング後にシャワーを浴びた男性が、親しい相手から「シャワーを浴びると君の匂いがなくなる」と残念がられた経験を紹介している。そこでは、ホッケーの練習を終えた友人の体臭が好きだという男性も体験を語っていた。
こうした書き込みを読むと、彼らが好んでいるのは「汗」という物質だけではないことが分かる。運動したばかりの身体、まだ体温が高い状態、その人自身の匂いが残っていることなど、複数の要素が組み合わさっている。
好きなのは「汗」そのものより、「その男性の匂い」

さらに特徴的なのが、「特定の男性の匂いだけが好き」という体験談である。ある男性は、職場に汗をかく男性が何人もいるにもかかわらず、その中の一人の体臭だけを非常に魅力的に感じたと書いている。他の同僚の汗臭さには特別な感情を抱かないのに、その男性の匂いだけは近くにいたくなるほど好きだったという。
同じように、恋人の体臭は好きでも、見知らぬ男性の汗臭さには何も感じないという人もいる。このことからも、体臭フェチといっても、単なる臭気への反応ではなく、「その男性自身への魅力」とかなり強く結びついている場合があることが分かる。
男性の体臭と性的指向については、学術研究も行われている。2005年にYolanda Martinsらが発表した研究では、異性愛男性、ゲイ男性、異性愛女性、レズビアン女性から採取した体臭を、性的指向の異なる参加者に評価させた。その結果、体臭の好みは単純な男女差だけでは説明できず、匂いを嗅ぐ側と体臭を提供した側の組み合わせによって評価が変化した。
2012年にKatrin Lübkeらが行った脳波研究でも、ゲイ男性では、潜在的な性的パートナーになり得る男性の体臭に対して、脳が比較的早い段階で異なる処理を行うことが報告されている。これらの研究は「体臭フェチ」を直接調べたものではないが、人間の体臭が単なる快・不快だけでなく、相手についての情報と結びついて処理されている可能性を示している。
また、androstenoneやandrostadienoneといった男性の体臭に関連する物質を用いた研究では、ゲイ男性と異性愛男性で嗅覚感度や脳反応に違いがみられた例もある。ただし、これらを単純に「男性フェロモン」と呼ぶことには慎重であるべきで、人間に明確な性フェロモンが存在するという科学的合意はない。こうした研究は、男性の匂いが性的魅力とどのように結びつくのかを考える材料の一つとして見るのが適切だろう。
なぜスポーツをしている男性の匂いに惹かれるのか

ネット上の体験談で特に目立つのが、ジム、ホッケー、フットボール、サッカーなど、スポーツをした後の男性である。男性の汗や腋を好む人の投稿では、「運動後」「試合後」「練習後」という状況が繰り返し出てくる。
ここには、汗の量が増えて自然な体臭が強くなるという単純な理由だけでなく、「スポーツマン」という男性像も関係していると考えられる。英語圏のゲイ文化では、スポーツをする若い男性を表す「jock」という言葉が、性的なタイプを示す言葉としても使われる。鍛えた身体、ユニフォーム、ショーツ、ソックス、スニーカー、ジョックストラップ、ロッカールームといった要素が、一つのまとまったイメージを作っている。
英国のゲイ男性向けメディアでは、サッカーのユニフォームやスポーツ用品を好むフェティッシュ文化も紹介されてきた。そこでは、単にサッカーユニフォームを着ていることだけでなく、「実際にサッカーをしている男性」であることがより魅力的だと語る当事者もいる。汗を吸ったウェアの匂いまで含めて、スポーツをする男性そのものに惹かれているのである。
掲示板には、フットボールのユニフォームや防具を身につけ、自分が汗をかいてウェアに匂いが残っていくこと自体を好むという体験談もある。別のフェティッシュ系コミュニティでは、使用後のスポーツシャツやソックス、スニーカーなどの匂いを好む人たちも見られる。
こうなると、興味の対象は「汗の匂い」だけではない。スポーツをした男性の身体と、その身体に直接触れていた衣服が一体となっている。汗を吸ったユニフォームは、「その男性が実際に運動した」という痕跡でもあり、衣服の匂いが身体そのものを連想させる媒体になっていると考えることもできる。
ロッカールームの記憶と「man musk」という文化

一部の体験談では、現在の嗜好と学生時代の記憶が結びついている。ある男性は、男性の汗だけでなく、芝生、泥、塩素、男性用デオドラントなどの匂いにも強い連想を持つと語っている。そして、それらが高校時代の体育やスポーツ、ロッカールームで過ごした時間と結びついているのではないかと自分なりに考えていた。
匂いが過去の記憶を強く呼び戻すこと自体は、心理学でもよく知られている。特定の香水を嗅いだ瞬間に昔好きだった人を思い出したり、プールの塩素臭で学生時代の記憶がよみがえったりする経験は珍しくない。嗅覚によって呼び起こされる記憶は、画像や言葉をきっかけにした記憶より感情を伴いやすいことも報告されている。
そのため、思春期に男性を意識し始めた人の場合、部活動や体育、ロッカールームで感じた男性の身体、汗、デオドラント、芝生や土の匂いが一つの記憶として結びつき、後年の嗜好に重なっている可能性もある。もちろん全員に当てはまる説明ではないが、なぜスポーツ関連の匂いが一部のゲイ男性に強く響くのかを考えるうえでは興味深い視点である。
英語圏では、こうした自然な男性の体臭を「man musk」と表現することがある。ここでいうmuskは、必ずしも長期間身体を洗っていない悪臭を意味しない。仕事を終えた後、ジムから帰った後、走った後などに残る、その男性自身の匂いという意味で使われることが多い。
この言葉が存在すること自体、一部のゲイ男性の間で「男性そのものの匂い」が独立した魅力として認識されていることを示している。腋を意味する「pits」、スポーツマンを意味する「jock」、ロッカールームやスポーツウェアなどの嗜好が重なることで、単なる体臭好きではなく、一つのフェティッシュ文化として発展している。
体験談に共通するのは「その男性らしさ」

さまざまな掲示板の体験談を横断すると、単に強い臭いを求めているわけではないという共通点が見えてくる。清潔な男性が運動や仕事をした後に生じる自然な匂いを好み、その中でも特定の男性の匂いだけを特別に感じる人が多い。また、ジムやスポーツの後という状況、ユニフォームやロッカールームといったイメージが同時に語られることも多い。
つまり、そこで魅力になっているのは汗の化学成分だけではなく、「その男性が身体を使って活動していたこと」や「その人自身の身体を感じさせること」まで含めた匂いなのだろう。好きな男性が運動した後に発する匂い、恋人が一日過ごした後に残る匂い、スポーツをしている男性のウェアに残った匂いは、本人にとってその男性の身体的な存在感を強く感じさせるものになる。
科学研究でも、人間の体臭が相手についての情報とともに処理される可能性や、性的指向によって一部の体臭関連刺激への反応が異なる可能性が研究されている。ただし、ネット上で語られる「ジム帰りの彼氏の匂いが好き」「試合後のユニフォームの匂いに惹かれる」といった具体的な嗜好を、そのまま説明できるほど研究は進んでいない。
それでも、掲示板、ゲイ向けメディア、スポーツウェア系フェティッシュ文化、そして嗅覚に関する研究を並べてみると、一つの共通した像が浮かび上がる。一部のゲイ男性にとって男性の汗や体臭は、単なる「臭い」ではなく、その人の身体や活動、男性らしさ、そして個人的な記憶まで感じさせる刺激なのである。



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