銭湯やサウナは性的な出会いのあるハッテン場か?ゲイと公衆浴場の関係と歴史を探る

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銭湯やサウナは、日本のゲイ文化を語る際にたびたび登場する場所です。戦後には、公園、公衆トイレ、映画館などとともに、一部の銭湯やサウナが男性同士の出会いの場として利用されました。その後、都市部には男性同士の出会いを目的の一つとする専用施設も生まれています。こうした歴史の背景には、日本独特の入浴文化、都市の匿名性、同性同士が裸で長時間過ごせる環境、そして同性愛者が日常生活の中で相手を見つけることが難しかった時代の社会状況があります。

現在では、スマートフォンの出会い系アプリによって、近くにいる相手を探すことも容易になりました。それでもゲイサウナやハッテン場は残っており、一部の一般銭湯が男性同士の出会いの場所としてインターネット上で語られることもあります。銭湯とゲイ文化の関係をたどると、日本の入浴文化だけでなく、同性愛をめぐる社会環境の変化、HIV予防、インターネットによる出会い方の変化まで見えてきます。

江戸の銭湯と男性同士の性愛の歴史

江戸で銭湯が急速に広がったのは17世紀初頭です。東京都浴場組合が紹介する『慶長見聞録』には、1591年に伊勢出身の与市という人物が現在の東京・常盤橋付近で銭湯を開いたという記録があります。17世紀初頭には「町ごとに風呂あり」といわれるほど普及していました。当時の銭湯は体を洗うだけの施設ではなく、風呂の二階で茶や菓子を楽しんだり、囲碁や将棋をしたりする庶民の社交場でもありました。仕事や身分の異なる人々が裸になり、同じ場所で時間を過ごす文化が江戸の生活に組み込まれていったのです。

江戸時代の銭湯では男女混浴も行われました。その後、幕府による風紀上の規制や明治期の制度変更を経て、男女別の浴場が定着していきます。日本ではこうした歴史を通じて、同性同士が裸で同じ空間にいることが日常生活の一部になりました。この「同性同士の裸の共同空間」という特徴は、後に一部の銭湯やサウナが男性同士の出会いの場所として利用される背景の一つにもなりました。

近世日本には、「男色」や「衆道」などの言葉で表現された男性同士の性愛文化もありました。武士や僧侶、歌舞伎の世界などに男性同士の関係が見られ、文学や絵画にも数多く描かれています。明治維新後、日本では近代国家の建設とともに、家族、結婚、性、男女関係をめぐる制度や価値観も変化しました。

1873年に施行された改定律例では、男性同士の肛門性交を意味する「鶏姦」が処罰対象とされました。この規定は旧刑法への移行に伴って1882年に廃止されています。その一方で、明治期の男子学生の間には男性同士の親密な関係を肯定する文化も残っていました。教育社会学者の前川直哉は、坪内逍遥の『当世書生気質』や森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』などを分析し、19世紀末の学生文化に男色を肯定的に見る価値観が存在していたことを指摘しています。その後、男女の恋愛や結婚を人生の中心に置く価値観が徐々に強くなっていきました。

第二次世界大戦後には、都市部を中心にゲイ男性が集まる場所が形成されます。ゲイバーのほか、公園、公衆トイレ、映画館、銭湯なども男性同士が相手を探す場所として利用され、こうした場所はやがて「発展場」「ハッテン場」と呼ばれるようになりました。ゲイライターのサムソン高橋は2024年の『ABEMA Prime』で、学校や職場などの日常生活の中から自由に同性の恋愛相手を探すことが難しかった時代には、同じ目的の人がいると分かる場所が必要とされたと説明しています。

ゲイサウナとハッテン場の実態

サムソン高橋は、公園、公衆トイレ、公衆浴場、映画館など既存の場所が出会いに利用されるケースを「転用ハッテン場」、男性同士の出会いを目的の一つとして営業する施設を「専用ハッテン場」と区別しています。都市部には現在も、「ゲイサウナ」「有料ハッテン場」などと呼ばれる男性向け施設があり、浴場やサウナ、休憩スペースなどを備えています。

首都圏で位置情報型のゲイ向けアプリを利用していたMSM、つまり男性と性行為をする男性1,653人を対象とした研究では、47.6%がハッテン場、論文中の表現では gay bathhouse の利用経験を持っていました。調査対象が特定のアプリ利用者であるため日本のゲイ男性全体を示す割合ではありませんが、都市部の一部のゲイ・バイセクシュアル男性にとって、こうした施設が身近な交流空間だったことが分かります。

初めて施設を利用する人の不安は、当事者向け掲示板にも具体的に残されています。ゲイ男性向け施設情報サイト「ハッテンナビ」には、2023年1月9日、「FTMとハッテンサウナに入れる??」という相談が投稿されました。投稿者は自分をバイセクシュアルの男性と説明し、FTMの男性パートナーがハッテンサウナに興味を持ったため、2人で利用できるのか質問しています。パートナーは館内の様子を見てみたいだけで、他の利用者から誘われても断るつもりだとも説明しています。

2人には、それ以前にハッテン映画館へ行った経験がありました。そのときには他の男性から身体を触られたものの、断る意思を示すとそれ以上は続かなかったため、ハッテンサウナでも同じように拒否できるのかを尋ねています。匿名投稿なので体験そのものを第三者が確認することはできませんが、「何が起こるか分からない」「誘われた場合に断れるのか」といった初利用者の不安が具体的に記録されています。

1990年代以降、ハッテン場は日本のHIV予防研究でも重要な場所になりました。ゲイ・バイセクシュアル男性にHIV予防情報を届けるため、研究者や当事者団体は実際に男性同士が集まる場所へ入り、利用者の行動や情報環境を調査するようになります。施設内でのポスター掲示、コンドームの配置、HIV検査に関する情報提供なども行われました。

研究者の市川誠一は、初めてハッテン場を訪れた際の経験を後に振り返っています。浴衣に着替えて館内へ入り、実際に利用者と話し、暗い空間などを見たことで、このような環境でどのように予防情報を伝えればよいのかを考えたといいます。研究者が外部から数字を見るだけではなく、実際の利用環境へ入ったことが、その後のHIV予防活動につながりました。2026年に『日本健康教育学会誌』でまとめられた研究史でも、1990年代のハッテン場調査から、ゲイコミュニティーと研究者が協働するHIV予防活動へ発展した経緯が整理されています。

一般の銭湯で起きた接触と掲示板の記録

専用施設とは別に、普通の銭湯やスーパー銭湯が男性同士の出会いの場所として利用されたとする記録もあります。その実態を具体的に残しているものの一つが、5ちゃんねる「お風呂・銭湯板」に2018年12月から存在した「スーパー銭湯 おふろの王様13」というスレッドです。そこでは特に大井町店について、男性同士の接触を経験したという投稿や、それを問題視する一般利用者の書き込みが繰り返されています。

2019年2月16日の投稿では、大井町店を利用したという男性が、浴場で左右にいた見知らぬ男性2人から陰部周辺に性的な接触を受け、最終的に射精したという体験をかなり具体的に書いています。その約3時間後には、別の投稿者が、このような行為が続けばスタッフの見回りが強化されるのではないかという趣旨の返信をしました。匿名掲示板のため、実際に出来事が起きたかは確認できませんが、少なくとも当時の掲示板には、普通のスーパー銭湯で見知らぬ男性同士の性的な接触があったという体験談が残されています。

同じスレッドでは、2019年2月下旬、浴場内で性的な行為をしていた利用者が他の客に見つかり、警察が来たという話も書き込まれています。その後、「警備が強くなった」「浴室内に従業員がいる」といった投稿も続きました。この一連の書き込みから、少なくとも掲示板利用者の間では、大井町店で男性同士の性的な利用が問題になっているという認識が共有されていたことが分かります。

このスレッドで何度も話題になっているのが、ロッカーキーを足首につける行為です。一部の投稿者は「足首に鍵をつけるのはゲイのサイン」と認識していましたが、普通の銭湯でも手首や足首につけている利用者はおり、その説に反論する書き込みもあります。2019年6月15日には、腕に巻くと邪魔なので普段から足首にロッカーキーをつけているという投稿者が、それだけで自分までゲイと判断されるのかと疑問を書き込んでいます。

さらに同年9月30日の投稿では、「足首の鍵がゲイのサイン」という噂を知らなかった時期に偶然足首へキーを巻いていたところ、見知らぬ中年男性が自分の周囲を不自然に何度も歩いていたという体験が語られています。投稿者は後から噂を知り、相手が自分を出会いの相手として見ていたのか、それとも単に警戒していたのか分からないと振り返っています。こうした書き込みからは、実際の接触体験だけでなく、ハッテン文化にまつわる噂が一般利用者にも広まり、行動だけから性的指向を推測する状況が生まれていたことも分かります。

施設の設備やスタッフの行動についても詳細な記録があります。2019年11月17日の投稿では、大井町店について、以前よりスタッフの浴室巡回が増えたこと、ミストサウナの温度が高くなったこと、不感温浴槽が炭酸泉へ変更されたこと、トイレの扉が足元を確認できる構造になったことなどが列挙されています。さらに、複数人でトイレに入らないよう求める張り紙もあったと書かれています。投稿者はこれらを男性同士の性的な利用を防ぐための対策と解釈していました。

匿名掲示板上の体験談だけではなく、警察が介入したことが報じられたケースもあります。2021年1月には、東京都渋谷区の銭湯で30代の男性2人が公然わいせつの疑いで書類送検されたと報じられました。5ちゃんねる「同性愛サロン板」には、この事件を扱う「羽衣湯でハッテン行為して書類送検よ! 2」というスレッドも立っています。

スレッド冒頭に転載された報道によれば、男性2人は前年11月、露天風呂で約20分にわたって性的な行為をした疑いを持たれました。2人にはそれ以前の面識がなく、その日に銭湯で知り合ったとされています。スレッドでは、一般の銭湯を出会いのきっかけとして利用することと、その場で性的な行為を行うことを分けて考える投稿も見られ、双方に意思がある場合でも別の場所へ移動するべきだという意見が出ていました。

トモヒロ
トモヒロ

僕は時々銭湯を利用するんだけど、好みの男性がいたら勃っちゃうんじゃないかって、不安に駆られるんだよね。中学の修学旅行のときも、みんなと一緒に大浴場に行くのが怖くて怖くて……。だって、初恋の相手の裸を見ちゃったら、僕の股間が……ねぇ……。

ユウト
ユウト

僕は先日、銭湯でシャワーを使ってるとき、思わず隣のお兄さんに見惚れてしまったんだ。そうしたら、後ろを通りかかったおじいさんにシャワーをぶっかけてしまって、思いっきり怒られたよ。ゲイだからどうこうじゃなくて、銭湯のような公共の場では、マナーを守ることが大切だよね。

ショウイチ
ショウイチ

私はこんな見た目だから、銭湯は利用できないのよね。男湯に入れば、好奇の目や嫌らしい目でジロジロ見られる。かといって、女湯に入るわけにもいかないし……。トランス女性に近い私って、公共の場での立ち居振る舞いが難しいのよ。

マサキ
マサキ

そういうのに銭湯やサウナがどう対応していくのかが、これからの時代では問われるんだろうな。銭湯っていえば「タトゥーお断り」がよく話題になるけど、外国人が日本にたくさん入って来てる現代で、海外の文化であるタトゥーを排除していいのかどうか?マナーなのか、法的なルールなのか、そこら辺もしっかり考えて議論していくべきだと思うぞ。

インターネットが変えた出会いと情報交換

男性同士の出会い方は、インターネットによって大きく変化しました。かつては、どの公園へ行けば男性同士が出会えるのか、どの映画館や銭湯が利用されているのかといった情報が、口コミやゲイ雑誌などを通じて伝えられていました。インターネットが普及すると、その情報交換は掲示板へ移ります。

5ちゃんねるの「お風呂・銭湯板」のような一般向け掲示板では、普通の銭湯について「ここにはゲイが多い」「この行動はサインなのではないか」といった情報が交換されました。一方、ハッテンナビのようなゲイ男性向けサイトでは、専用施設の設備、混雑する時間、客層、利用した際の経験、初めて訪れる際の注意点などが共有されています。

スマートフォンが普及すると、位置情報を利用して近くにいる男性を探せるゲイ向けアプリも広がりました。2019年に発表された首都圏のMSMを対象とした研究も、位置情報型アプリの利用者を対象として行われています。同調査では、ゲイバーの利用経験がある回答者は56.8%、ハッテン場の利用経験がある回答者は47.6%でした。現在では、オンラインで相手を探す方法と、ゲイバーやハッテン場など実際の場所へ行く方法が併存しています。

匿名掲示板の記録を時系列で追うと、学術研究や報道だけでは見えにくい利用者側の経験も浮かび上がります。2019年2月には普通のスーパー銭湯で見知らぬ男性2人から性的な接触を受けたという書き込みがあり、9月には「足首の鍵」という噂を知らないまま足首にキーをつけ、見知らぬ男性が周囲を何度も歩き回っていたという体験が投稿されました。11月には、スタッフの巡回やサウナ、浴槽、トイレの構造の変化まで観察し、それらをハッテン行為への対策だと解釈する投稿も残されています。

匿名投稿には事実確認できない内容も含まれますが、投稿者がそのとき何を経験したと感じ、何を警戒し、どのような情報を他人と共有していたのかを知る資料にはなります。また、実際の接触体験とともに、「足首に鍵をつけている」「周囲を見回している」といった行動から他人の性的指向を推測する書き込みも存在し、体験談、噂、偏見が同じ場所で拡散していたことも分かります。

マンガに描かれた銭湯とゲイ文化

銭湯や温泉は、ゲイや同性婚を扱ったフィクションでも象徴的な場所として描かれてきました。代表的な作品の一つが、田亀源五郎のマンガ『弟の夫』です。物語では、主人公の弥一と娘の夏菜が暮らす家を、亡くなった双子の弟・涼二の夫だったカナダ人男性マイクが訪れます。マイクと一緒に生活する中で、弥一はゲイや同性婚に対して自分が抱いていた感情と向き合っていきます。

作中には温泉へ行くエピソードもあり、衣服を脱いで同じ湯につかる日本の「裸の付き合い」が、人間関係を描く舞台として用いられています。文化庁も『弟の夫』を、同性婚をテーマに一般社会の中で暮らすゲイを描いた作品として紹介しています。同性同士が裸になること自体は日常的な行為として受け入れられてきた日本の入浴文化が、ゲイを題材とする作品の中で、人と人との心理的な距離を描くために使われている点は興味深いところです。

『弟の夫』に描かれる「裸の付き合い」、男性同士が性的な出会いを求める専用ハッテン場、地域住民が日常的に利用する一般の銭湯は、それぞれ異なる文化と目的を持っています。その一方で、いずれも「同性同士が同じ場所で裸になる」という日本の入浴文化と接点を持っています。

日本の銭湯とゲイ文化の関係には、江戸以来の裸の共同空間、近代以降の性意識の変化、戦後のクルージング文化、ゲイサウナの発達、HIV予防活動、インターネット掲示板、現在の位置情報型アプリ、そしてマンガや映像作品に描かれる「裸の付き合い」まで、多くの要素が重なっています。普通の銭湯、ゲイサウナ、ハッテン場はそれぞれ異なる目的を持つ空間ですが、その境界が一部で重なったところに、実際の利用者たちの出会い、トラブル、交流、コミュニティーの歴史が積み重なってきました。

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