銭湯やサウナは、ゲイにとって出会いの場としての役割も担ってきました。一方で、ゲイによる迷惑行為が報じられることで、ゲイに対する偏見や差別を助長することも少なくありません。この記事では、ゲイと公衆浴場の関係や歴史的な経緯、現代社会における問題点などを紹介します。
銭湯やサウナがハッテン場となる
公衆浴場としての銭湯は、17世紀初頭(江戸時代初期)に庶民の間で広まったとされます。当時の銭湯は、体を洗う浴場の機能に加えて、社交場としての役割も果たしていました。庶民たちが銭湯で毎日顔を合わせ、情報を交換したり、親交を深めたりしました。
銭湯はもともと男女混浴でした。しかし、17~18世紀(江戸時代中期~後期)にかけて、風紀上の問題から幕府が混浴を規制したため、男女別の銭湯も登場し始めました。明治時代には、西欧諸国からの批判を受けた政府が、近代化政策の一環として混浴を禁止します。こうして、全国のほとんどの銭湯が男女別になりました。
1960年代後半~1970年代には、銭湯にもサウナが設置され、一般の入浴客も気軽に利用できるようになりました。個人の住宅に風呂が普及し始めた時期でもあり、サウナで経営難を打開しようとする銭湯も少なくありませんでした。
明治時代に日本の西洋化が進む中、キリスト教的な価値観などから、同性愛はタブー視されるようになりました。そのため、自らの性的指向を公表できないゲイたちは、銭湯やサウナを利用して秘密裏に交流を深めました。
ゲイたちが出会いを目的として利用する場所は「ハッテン場」と呼ばれます。銭湯やサウナもハッテン場として機能してきましたが、これらの施設はゲイたちの性的な行為を許容していません。そのため、施設側は適切な対応を行い、一般の利用者が不快な思いをしないように配慮してきました。
銭湯やサウナとゲイの関係の歴史
1970~1980年代、ゲイたちは一部の銭湯やサウナを「クルージングスポット」として利用していました。クルージングスポットとは、主にゲイが性的な出会いを求めて訪れる場所です。英語の「cruising(クルージング)」には「巡回する」「探し回る」という意味があり、そこから転じて「同性同士の出会いを求めて行動すること」を表すようになりました。ゲイによる性的な行為などがトラブルを引き起こすことがありました。一方、これらの行為を黙認する経営者もいました。
1990~2000年代は、銭湯やサウナにおけるゲイの迷惑行為が厳しく取り締まられた時期です。時として警察が介入し、公然わいせつ罪や迷惑防止条例を適用する事例もありました。公衆浴場の数が減少した時期でもあり、新たな客層を開拓したい施設側は、ルールを厳格化して、ゲイによる性的な行為などを積極的に排除していきました。
インターネットが普及したことで、ゲイたちがネット掲示板やSNSで情報を共有し、一部の銭湯やサウナを「出会いの場」とするようになりました。2010年代には、ある銭湯において、ゲイが性的な行為に及んだり、一般の利用者に対して不適切な接触を行ったりする事例が報告されました。施設側は、一般の利用者に向けて張り紙で注意を喚起したり、巡回を強化したりするなど、警戒を強めていきます。
2018年には、東京都新宿区にある男性専用サウナで、盗撮を行った利用者が逮捕されました。このサウナはもともとゲイに寛容でしたが、事件を境に運営方針が改めることになりました。
一部のゲイによる迷惑行為が報じられると、「ゲイ=迷惑行為をする人」という偏見が広まりかねません。結果として、多くのゲイは銭湯やサウナを適切に使っているにもかかわらず、「自分も迷惑な奴だと思われるのではないか?」「差別的な扱いをされるのではないか?」などと不安に感じ、施設の利用を避けることにつながります。また、「ゲイの利用者がいると、他の利用者からクレームが来る」という理由で、ゲイ(と思われる男性)の入浴を断る銭湯やサウナもあると思われます。

僕は時々銭湯を利用するんだけど、好みの男性がいたら勃っちゃうんじゃないかって、不安に駆られるんだよね。中学の修学旅行のときも、みんなと一緒に大浴場に行くのが怖くて怖くて……。だって、初恋の相手の裸を見ちゃったら、僕の股間が……ねぇ……。

僕は先日、銭湯でシャワーを使ってるとき、思わず隣のお兄さんに見惚れてしまったんだ。そうしたら、後ろを通りかかったおじいさんにシャワーをぶっかけてしまって、思いっきり怒られたよ。ゲイだからどうこうじゃなくて、銭湯のような公共の場では、マナーを守ることが大切だよね。

私はこんな見た目だから、銭湯は利用できないのよね。男湯に入れば、好奇の目や嫌らしい目でジロジロ見られる。かといって、女湯に入るわけにもいかないし……。トランス女性に近い私って、公共の場での立ち居振る舞いが難しいのよ。

そういうのに銭湯やサウナがどう対応していくのかが、これからの時代では問われるんだろうな。銭湯っていえば「タトゥーお断り」がよく話題になるけど、外国人が日本にたくさん入って来てる現代で、海外の文化であるタトゥーを排除していいのかどうか?マナーなのか、法的なルールなのか、そこら辺もしっかり考えて議論していくべきだと思うぞ。
ゲイカルチャーとしての公衆浴場
銭湯やサウナなどの公衆浴場がゲイカルチャーの一部として描かれることがあります。これらの作品がゲイに対する差別や偏見を打開するきっかけになる可能性があります。
たとえば、田亀源五郎のマンガ作品『弟の夫』では、日本の公衆浴場における「裸の付き合い」が、コミュニケーションの場になったり、多様性を受容するきっかけになったりするなど、多角的な視点から描かれます。主人公の弥一は義弟のマイク(ゲイのカナダ人)を銭湯に連れて行きます。弥一とマイク、さらには、その場に居合わせた人々との間に親近感が生まれ、さまざまなやり取りを通してお互いに心を開いていきます。
銭湯やサウナが「ハッテン場」とされてきた一方、性的な出会いを目的としない「裸の付き合い」がゲイ、さらには一般の利用者たちの交流の場になってきたのも事実です。多様性を受容する場として機能してきた公衆浴場は、今後もその役割を担っていくことのでしょう。一部の利用者の迷惑行為にばかり目を向けるのではなく、銭湯やサウナの歴史的・文化的な意義をふまえた議論が盛り上がることに期待します。




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