《我が子を食らうサトゥルヌス》の謎!カニバリズムは父親と息子の近親相姦の象徴か?

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食と性は関係が深いといわれます。他人が食事しているシーン、咀嚼・嚥下といった行為は、フェティッシュな性的興奮を誘発することがあります。中でも、普遍的な禁忌(タブー)とされてきたカニバリズム(人肉食)は、性との強い結びつきが指摘されます。今回は、そんなカニバリズムをテーマにしたゴヤ《我が子を食らうサトゥルヌス》を紹介します。

人間が人間の肉を食べるカニバリズムとは?

カニバリズムは、人間が人間の肉を食べる行動全般のことです。大抵は禁断の行為とされますが、飢饉や事故などで食糧が欠乏した状況下で当事者が死体の肉を食べる行為は、歴史的にもしばしば見られます。また、宗教的儀式の一部として食人行為が存在する文化もあります。

かつて日本でも、人間の内臓が万能薬として重宝されていた時代があります。

有名なところでは、「安達ヶ原の鬼婆」伝説があります。かつて京の都の公家に仕えていた「岩手」という乳母が、不治の病に冒されていた姫君のために、病気に効果があるという胎児の生き胆を求めて旅に出ます。彼女は、奥州の安達ヶ原で岩屋に住み着き、妊婦を待ち構えます。そこに格好の標的が現れます。岩手は出刃包丁で旅の妊婦を殺し、胎児の生き胆を抜き取ります。しかし、殺した女が持っていたお守りから、彼女が岩手の実の娘であったことが判明します。姫君を救うためとはいえ、自分の娘を手にかけた岩手は、発狂して鬼婆と成り果てるのでした。

この伝説に関しては、幕末の浮世絵師・月岡芳年の描いた《奥州安達が原ひとつ家の図》がよく知られています。「風紀を乱す」という理由から、明治政府により発禁処分を受けたいわくつきの絵です。見たことのある方も多いことでしょう。

他にも、江戸時代には、「人胆丸」という名前の薬として人間の肝臓が高値で取引されていた、という記録もあります。処刑された罪人の死体は日本刀で試し切りされました。それを職とする山田浅右衛門とその一族は、死体から肝臓を抜き出して売却することで、大名に匹敵するだけの財をなしたと言い伝えられます。人間の内臓の売買は明治時代以降も続きます。そうした売買を明治政府が禁止するほどだったそうですから、薬として人を食らう習慣は近代でも珍しくなかったのです。

一方、緊急避難的な人肉食としては、太平洋戦争中の飢餓状態が語られることがあります。特に、グアム島やニューギニア島では、日本兵が現地人を殺してその肉を食らった、という証言がなされています。戦場での食糧難から仕方なく行われた行為とはいえ、被害を与えた日本人にも被害を受けた現地人にも、いつまでも消えない傷を与えたことには変わりありません。

中には、終戦後の戦争裁判で、カニバリズムを行なった日本兵が戦犯として処刑されたケースもあります。日本の陸海軍高級幹部がアメリカ軍捕虜を殺害しその肉を食した小笠原事件です。この事件では、食糧事情が悪くなかったにも拘らず、酒宴の場で士気高揚を目的として人肉食が行われたそうです。これは、儀式的なカニバリズムと捉えるべき事例でしょう。

ゴヤが描いた《我が子を食らうサトゥルヌス》

《我が子を食らうサトゥルヌス》の謎!カニバリズムは父親と息子の近親相姦の象徴か?

フランシスコ・デ・ゴヤ《我が子を食らうサトゥルヌス》

右の絵は、スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤが描いた《我が子を食らうサトゥルヌス》です。

ゴヤは、晩年、自身の住居の壁に絵を描きます。この一連の絵は後に「黒い絵」と呼ばれます。ゴヤは、宮廷画家として活躍しますが、ナポレオン率いるフランス軍がスペイン侵攻とその後のスペイン独立戦争を経験し、《マドリード、1808年5月3日》《巨人》などの作品群を渦中で描き上げました。その後、マドリード郊外に「聾者の家」を購入し、「黒い絵」の制作に着手します。

さて、《我が子を食らうサトゥルヌス》には、様々な逸話があります。オリジナルの絵では、自分の子供を頭から齧りその肉を食らうサトゥルヌスの陰茎が勃起していたことが後の研究で明らかとなっています。後世の修正を経て、現代では、この勃起を見ることができません。しかし、「サトゥルヌスは何故勃起していたのか?」という謎は解明されないままです。ここでは、その謎について考察してみたいと思います。

サトゥルヌスは、ローマ神話に登場する農耕神で、大地の女神ガイアと天空神ウラノスとの間に生まれた息子です。

ところで、ガイアとウラノスの夫婦は、そもそも大きな問題を抱えています。それは「子殺し」でした。二人は沢山の子どもを産んでいくのですが、中には醜悪な子どももいます。ウラノスは、そんな醜い子どもたちを、母なる大地の奥底へと沈めていくのでした。夫の行為に激怒したガイアはサトゥルヌスに命じます。

「父であるウラノスを殺しなさい!」

母から大鎌を受け取ったサトゥルヌスは、母の命に従って、父ウラノスを殺します。挙句、その死体から男根を切り取って大海原に投げ捨てる、という頭のおかしい行為までしてしまいます。父親を殺すのみならず去勢までしてしまうあたり、既にサトゥルヌスの性的倒錯が読み取れるわけです。フロイトが唱えた「エディプスコンプレックス」です。

もっとも、悲劇はこれで終わりません。自らの息子に切られたウラノスは、絶命の寸前に忌まわしい予言をします。

「おまえも、きっと自分の子どもに殺されるはずだ!」

憎悪の込められた予言は、後にサトゥルヌスを狂気に陥れます。亡き父の言葉が実現するのを恐れたサトゥルヌスは、ハデスやポセイドン等、5人の子ども達を次々と呑み込んでいきます。しかし、末子であるゼウスが父を倒したことで、一度呑み込まれた神々は救出されます。結局、ウラノスの予言は的中し、サトゥルヌスは自分の子どもに殺されてしまったわけです。

この神話のワンシーンを、ゴヤは独自の解釈で描きました。

同性愛とカニバリズムとの関係性に関する一考察

例は多くありませんが、現実世界でも、カニバリズム事件が度々発生しています。特に有名なのが、「ミルウォーキーの食人鬼」として恐れられたジェフリー・ダーマーです。彼は、1978年から1991年にかけて、オハイオ州やウィスコンシン州を中心に17人を殺害して屍姦し、死体を切断した上、その肉を食らいました。彼はゲイだったため、同性愛の青少年をターゲットにして殺人を繰り返しました。

この一件のみを以て、同性愛とカニバリズムの関係性を論じることは短絡的かもしれません。しかし、そこには何らかの関係性があるように思います。

ダーマーは幼少期より孤独に苦しんでいて、しかも性的マイノリティであるが故にパートナー探しには苦労していました。彼は一度、理想の恋人を求めるあまり、黒人男性の頭蓋骨に穴を開けて塩酸を流し込む、という狂気の手術を行ったことすらあります。そんな彼が、愛する者とを合一を望んでカニバリズムに辿り着いたとしても、何ら不思議はないと考えられます。

また、カニバリズムといえば、「パリ人肉事件」で世を震撼とさせた佐川一政がいます。彼が佐世保女子殺害事件について寄せたコメントは示唆に富んでいます。彼は次のように述べます。

「遺体をバラバラにしてみたかった」という供述に、同性愛的な愛情を強く感じます。「なぜ親友を解体できるのか」ではなく「親友だからこそ解体したかった」と解釈すべきなのです。

ゴヤは父親と息子の近親相姦的同性愛を描いた?

神話におけるサトゥルヌスは子どもを呑み込んでいます。しかし、ゴヤは、自身の解釈を以て、サトゥルヌスが子どもを食いちぎるシーンとして描いています。しかも、陰茎の勃起まで描いたので、そこに何らかの意図があると考えられます。同性愛を初めとする、いわゆる「禁断の愛」とカニバリズムとの関係性を踏まえた上でその意図を解釈すれば、僕は以下のように考えます。

サトゥルヌスは、父親のペニスを切り落とす、という異常性癖の持ち主です。彼が自分の子どもを殺すとなれば、父殺しのときと同様の性的感情が沸き起こりました。いくら父の予言を恐れたからとはいえ、サトゥルヌスが我が子をただ殺すだけでなく呑み込んでいったという場面には、どことなく近親相姦的な雰囲気が漂っています。本来は肉体的に交わることの許されない父親と息子――そのタブーを打ち破り究極の合一を目指す過程でカニバリズムに至った――そう解釈できるからです。お

互い身近な存在でありながら決して一線を超えられない者同士、行き着く先が「食べる」行為を通しての一体化だとすれば、サトゥルヌスは愛故に性的なエクスタシーを味わったに違いありません。サトゥルヌスは、息子のアナルをレイプしているのと同じ気持ちで、その肉をムシャムシャと食らったのでしょう。ゴヤは、神話が言葉を濁している部分を鮮明に描き直したのだと思われます。

《我が子を食らうサトゥルヌス》を、父親と息子の近親相姦的同性愛とカニバリズムの関係性から読み解くと、そこにはリョナラーが悦ぶ変態的な臭いを感じ取ることも可能でしょう。

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