一目惚れした男子と友達になり、その存在がどんどん大きくなる
「この授業、取るつもり?」
新学期の講義室は、履修登録の相談でざわついていた。教壇では教授が簡単なガイダンスを進めている。でも、俺はノートを開くふりをしながら、つい隣の席の男子に目を向けてしまう。
整った横顔。さらりとした黒髪。長めの前髪が伏し目がちの瞳を隠していて、どこか物静かな雰囲気をまとっている。けれど、ふとした瞬間に見せる笑顔が、どこまでも柔らかい。思わず目を奪われた。
たぶん、この瞬間に俺は一目惚れしていたんだろう。
彼の名前は佐倉優人。
「ああ、うん。取るつもり」
優人が言う。落ち着いた、穏やかな声だった。
「そっか、俺も取るんだ。よかった、知り合いがいると心強いし」
「確かに。一緒に頑張ろう」
微笑みながら言う優人の顔を見て、俺の心臓が跳ねる。
――もっと優人のことを知りたい。もっと優人と仲良くなりたい。
そんな気持ちが、じわじわと膨らんでいった。
俺は背が高く、がっしりとした体型をしている。昔からサッカーをやっていたこともあり、運動は得意だ。明るい性格だと思われがちだけど、実はそれほど社交的ではない。誰とでも話せるけれど、深く関わるのは苦手だった。
でも、優人に対しては違った。もっと話したかったし、もっと近づきたかった。
優人は大人しくて、どちらかというとインドア派。映画や読書が好きで、カフェ巡りが趣味だと言っていた。俺とは正反対の部分が多かったけれど、一緒にいると不思議と落ち着いた。
最初は「優人の近くにいられたらいいな」くらいの気持ちだったのに、いつの間にか優人の存在が俺の中でどんどん大きくなっていった。

僕も大学入学直後のガイダンスで、隣の席の男子に声をかけられて、その子のことを好きになったのを思い出したよ。彼と一緒に、同じグループでしばらく活動していたけど、「好き」という気持ちが強まっていくのが辛くて、僕はそのグループから離れたんだ。後になって思うと、本当に彼のことが好きだったのかどうか、それがまず怪しいんだよね。新しい環境で、つい誰かに執着してしまうことって、あると思うんだ。
一緒に映画を観て、カラオケで歌って、水族館に行って…
「この映画、気になってるんだけど、一緒に行かない?」
「いいよ、俺も観たかったし」
二人で映画を観に行った。カフェで感想を語り合う時間も楽しくて仕方なかった。
俺は優人との距離をもっと縮めたくなって、聞いてみた。
「カラオケとか行ったりする?」
「実は結構好きなんだよね」
「マジで? じゃあ今度一緒に行こうぜ!」
意外な共通点にテンションが上がる。その後、二人でカラオケに行って、優人が意外に歌が上手いことを知った。楽しそうな表情が印象的だった。
水族館の無料チケットが当たったときも、真っ先に優人の顔が浮かんだ。
「なあ、これ当たったんだけど、一緒に行かない?」
「水族館か……いいね、行きたい」
青く揺れる水のカーテンの向こうで、俺たちはゆっくりと歩いた。
「すごい……綺麗だね」
小さく呟いた優人の声が、耳に残る。
――このままずっと、こんな時間が続けばいいのに。
そう思うくらいに、俺は優人を好きになっていた。
でも、どれだけ仲良くなっても、俺は「優人の一番」にはなれなかった。
優人は誰にでも優しくて、気遣いができた。俺といる時間を楽しんでくれているとは思う。でも、それが特別なのかどうか、自信がなかった。
片思いは楽しい。でも、同じくらい苦しかった。
話せば話すほど、触れそうで触れられない距離がもどかしくて、どうしようもなく切なかった。
このまま友達でいたら、俺はずっとこの気持ちを抱え続けることになる。
――だから、告白しよう。
そう決めた瞬間、ものすごく怖くなった。
――もし嫌われたら? 気まずくなったら?
でも、伝えなければ何も変わらない。
ノンケに「好き」と告白したら、男同士の友情はどうなったのか?
俺は意を決して、優人を呼び出した。
待ち合わせの場所で待つ間、心臓がバクバクしていた。
彼が来ても、なかなか切り出せない。
「……どうしたの?」
不思議そうに首をかしげる優人。
「……俺、ゲイなんだ」
精一杯の勇気を振り絞って言った。
「……うん」
優人は少し驚いたような顔をした後、静かに頷いた。
「それで……お前のことが好き……。ずっと前から……」
言葉が震える。
しばらくの沈黙の後、優人は困ったように微笑んだ。
「……男同士だからとかじゃなくて、付き合うって、まだよく分からなくて……。だから、ごめんね」
優しい声だった。
俺の気持ちを傷つけないように、でも、答えは変わらないと伝えるように。
「そっか、そりゃそうだよな」
笑ってごまかした。でも、胸の奥がひどく痛んだ。
それから、俺たちは少しずつ距離を置くようになった。
授業で顔を合わせれば軽く話す。でも、それだけ。
映画に行くことも、カラオケでふたりで歌うこともなくなった。
時間が経てば、この気持ちもいつかは薄れていくのかもしれない。
それでも——。
映画の余韻に浸りながらコーヒーを飲んだ時間。
カラオケでふざけ合いながら歌った声。
二人で並んで歩いた水族館。
そのすべてが、俺にとってかけがえのない思い出になっていた。
淡い光の向こうに、俺の想いは溶けていった。

俺は大学時代、女子から告白されて、「ごめん。俺、ゲイなんだ」って断ったことがあるぞ。その女子との関係はやっぱりぎこちない感じになって、いつの間にか、ほとんど話をしなくなった。

男同士だからとか、男女だからとかに関係なく、告白に失敗した後は関係が微妙になるよね。誰が悪いってわけじゃないけど、そういうのは悲しい。

その悲しみを乗り越えて、人間は成長するんだよ、きっと。



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